RTO (Radio Telephone Operator、無線通信手) は戦闘部隊と行動をともにし上級部隊や隷下部隊との通信を確立する役職です。ポータブルや車載式の UHF (Ultra High Frequency) と VHF (Very High Frequency) 無線機を使い、円滑なコミュニケーションを実現させます。無線通信手は作戦中、次のことを行います。
目次
役割
- 常に交信をする。上級部隊との通信が途絶えた場合、すぐさま隊長か隊付き軍曹へ報告し、再交信を試みる
- 近接航空支援、間接射撃の要請、後送支援を報告し、加えてアンテナに習熟する
- 小隊の兵士全員が、無線手の周波数とコールサイン、場所を知っている
- 情報管理で隊長を補佐する
- 隊が利用するデジタル機器について隊長と隊付き軍曹を補佐する
- 作戦に必要な装備を管理する
無線通信手は常に指揮官と行動を共にし、指揮官からの指示を簡潔にまとめて部隊に伝達します。人が言ったことを抜けや間違いなく伝えるのは意外と難しいものです。さらに相手側からの通信を指揮官に伝える必要もあり、聞くのと喋るのを同時にこなさなければなりません。
あくまで伝達要員であり、自分の判断で指揮する権限はありません。しかしながら作戦の概要や指揮官の考えを正しく理解していないとスムーズな伝達は難しいでしょう。
主な装備
一般歩兵の装備と変わりませんが、大きく異なる点はマンパック型無線機を所持しています。これは通常の無線機より高出力で、航空機や遠隔地の部隊とも通信可能です。作戦を滞りなく進めるためにも、無線機の操作を習熟している必要があります。また同時に複数の周波数を聞き分け、正確に文言を伝える必要があります。
無線機
名称 | 種類 | チャンネル数 | 範囲/距離 |
---|---|---|---|
AN/ARC-164 | UHF、航空機に搭載 | 8 | 30-87 Mhz / 40 km |
AN/PRC-148 | UHF、個人携帯 | 8 | 30-512 Mhz / 5 km |
AN/PRC-152 | VHF、個人携帯 | 8 | 30-512 Mhz / 5 km |
AN/PRC-154 | UHF、個人携帯 | 8 | 30-512 Mhz / 2 km |
AN/PRC-155 | V/UHF、マンパック | 8 | 30-87 Mhz / 20 km |
AN/PRC-210 | V/UHF、航空機に搭載 | 8 | 30-87 Mhz / 40 km |
FADAK | UHF、個人携帯 | 8 | 30-512 Mhz / 5 km |
MR3000 | HF/VHF、マンパック | 8 | 30-87 Mhz / 20 km |
MR6000L | V/UHF、航空機に搭載 | 8 | 30-87 Mhz / 40 km |
PNR-1000A | UHF、航空機に搭載 | 8 | 30-512Mhz / 2 km |
RF-7800S-TR | UHF、個人携帯 | 8 | 30-512Mhz / 2 km |
RT-1523G (ASIP) | VHF、マンパック | 8 | 30-87 Mhz / 20 km |
トラブル シューティング
無線通信が全く聞こえない。
- 音量を聞こえるレベルにあるか
- 周波数の確認
- Team Speak の設定を確認
- Team Speak のチャンネルを確認
- 使用デバイスを確認
通信するときは
精確さ
どのような内容を送信するかということは、事前にはっきりと決めておきます。うまく伝わらずに何度も内容を修正することはメリットがありません。特に座標などはダブルチェックします。何を言うか時間をかけて考えて送信するようにします。
簡潔さ
長い送信は時間を取るだけでなく、聞いている側からしてもどの情報を聞きとれば良いのかという判断がしにくいという欠点があります。指示や報告もふくめて、長い文章を控えます。伝えたい重要なことだけを伝えられるようにします。
明確さ
大きな声ではっきりと、早口にならないよう注意して話し、聞き間違いを防ぎます。
情報の選別
送信先には関係のない情報は送らないということです。例えば味方を目標エリア内に発見したとして、その情報は送信先である指揮部隊に必要ありません。どのような情報を送るかという点についても注意します。
無線通信での文章
コールサイン
分隊やユニットはそれぞれコールサインを持っています。一般的にはコールサインだけで、どのようなユニットで、どのような役割を持ったユニットなのかということが判別できます。コールサインはブリーフィング時に確認できます。
交信の開始
相手との交信を始めて開始するときに、最初の一言目は必ず受信者のコールサインとしてください。そうすることによって、その無線通信を聞いている誰もがまず最初にあなたが誰に対して交信を始めたいのかがわかります。その次に言うべきは送信者のコールサインです。(例: 「アルファ 1、こちらアルファ 2」)
このとき、受信側は自身のコールサインを聞き取れた場合、受信側のコールサインを言うか、もしくは受信可能である旨をしめす「おくれ/Send it/Go ahead」を自身のコールサインの後に言うことです (例: アルファ 1、おくれ)。
本文
交信したいコールサインとの通信が開始できたら、送信する文章の最後に「おくれ/Over」を付けます。これは送信が終了し、受信側からの応答を待機中であるという意味です。受信側は「どうぞ/Over」を聞き、初めて応答できます。なお状況によって「おくれ/Over」が省略されるときもあります。
交信の終了
交信を終了するには、文末に今まで「おくれ/Over」と付け加えていたところを「おわり/Out」に置き換えます。受信側は、「おわり/Out」が聞こえた場合、返答は必要ありません。
始めから終わりまで、例のひとつです。
アルファ 1 | アルファ 2、こちらアルファ 1、おくれ。 |
アルファ 2 | アルファ 1、こちらアルファ 2、おくれ。 |
アルファ 1 | 3時方向、木のそばに居る二人組が見えるか?おくれ。 |
アルファ 2 | 白い服を着ているやつか?おくれ。 |
アルファ 1 | そうだ、監視を続けてくれ、おくれ。 |
アルファ 2 | 了解、おくれ。 |
アルファ 1 | アルファ 1 おわり。 |
無線通信の確立
RTO が作戦開始前にまずおこなうことは、上級や隷下部隊との通信を確立することです。以下の例で通信します。
アルファ 6 | ネット、こちらアルファ 6、無線チェック、おくれ。 |
アルファ 1 | アルファ 6、こちらアルファ 1、了解、おくれ。 |
アルファ 2 | アルファ 6、こちらアルファ 2、感度弱い、おくれ。 |
アルファ 3 | アルファ 6、こちらアルファ 3、了解、おくれ。 |
アルファ 6 | ネット、こちらアルファ 6、了解、おわり。 |
受信側は、無線通信の強さと明度を返答します。了解は、良好と同じ意味です。
状況報告 (SITREP)
状況報告 (Situation Report) は作戦行動中に行われ、自部隊の現在状況や何が起きたかを指揮部隊に伝えます。自コールサイン、部隊の展開状態、現在の行動、予定を含む対応、支援要請を伝達します。例です。
アルファ 6 | アルファ 1、アルファ 6、状況報告、おくれ |
アルファ 1 | アルファ 6、アルファ 1、了解、ブレイク |
アルファ 1 | 座標 123456 から北に移動中。TRP 4 付近の敵分隊と交戦しこれを排除。Zulu 経由し西から X-ray に侵入予定。重傷 1、Hotel にて衛生兵を要請、おくれ |
アルファ 6 | アルファ 6、了解、おわり |
接敵報告
敵と接敵した場合に、小隊ネットや上級部隊へ送る接敵報告 (SALTA) という定文型あります。すぐに交戦が始まる場合では警告にもなりますし、どの部隊が交戦中なのかが分かります。
SALTA とは
- Size of the enemy (敵の規模)
- Activity of the enemy (敵の行動)
- Location of the enemy (敵の位置)
- Time of sighting or contact (発見か接触した時間)
- Action of taken by own forces (自部隊の行動)
歩兵なのか、車両なのかといった敵の規模、何をしているか、ランドマークやマップ マーカーを使ったおおよその位置、いつ見たのか、自部隊の動きを正確に伝える必要があります。例です。
アルファ 1 | アルファ 6、アルファ 1、接敵報告、おくれ |
アルファ 6 | アルファ 1、アルファ 6、報告せよ、おくれ |
アルファ 1 | 敵歩兵分隊、縦隊で移動中、TPR 2 の東 200m を南に、時刻は現在、我部隊は交戦準備よし、このまま監視を継続、おくれ |
アルファ 6 | 了解、その位置を保持、おくれ |
アルファ 1 | アルファ 1 おわり。 |
火力支援要請
小隊が中隊に火力支援を要請するときは、明確な情報であればあるほど誤射の可能性が少なくなり、効果的な支援が得られます。なお航空機などは多くの場合、FAC から最初の命令だけを受け取り、支援要請をした部隊が使用する周波数に切り替え、地上に居る人員と直接やり取りをします。また、車両と要請部隊が直接通信する場合もあります。
伝えるべき情報として、目標の位置 (座標) と目標の指示方法、友軍の位置とその方法、そして上手く伝達できたかどうかを確認します。例です。
アルファ 1 | アルファ 6、アルファ 1、火力支援要請、おくれ |
アルファ 6 | アルファ 1、アルファ 6、おくれ |
アルファ 1 | 自部隊は座標 12345678、グリーン スモークにてマーク、目標位置は座標 098765、敵戦車 1 両、レッドスモークにて指示、復唱せよ、おくれ |
アルファ 6 | 復唱する、自部隊は座標 12345678、グリーン スモークにてマーク、目標位置は座標 098765、敵戦車 1 両、レッドスモークにて指示、おくれ |
アルファ 1 | その通り、アルファ 1 おわり。 |
通話略号
無線通信はその性質上、文章を簡略化するために内容を凝縮した略語が使われます。おくれやおわりも含まれます。
- BREAK – ブレイク
- 本文を分割して送信するという意味です。
(例: アルファ 1-1 は…ブレイク、…せよ、おくれ」)
もしくはブレイクを 2 回続けて、ほかの送信が行われているなか、割り込むことを宣言できます。 - CORRECT – そのとおり
- 受信側または受信側の送信が正しいと言うときに。
- CORRECTION – 訂正
- 送信内容に間違いがあったときに。送信は訂正の後に続けます。
(例: アルファ 1-1 は中止…訂正、注意せよ、おくれ」) - DISREGARD THIS TRANSMISSION-OUT – この送信は無視せよ、おわり
- 送信そのものに間違いがあったため、無視して欲しいときに。ただし、応答や了承が返ってきている送信には使用してはいけません。
- DO NOT ANSWER – 応答不要
- 応答不要が聞こえたら、その送信に対して返答はしてはいけません。送信側が使用する場合は、送信を必ず”おわり/OUT”で終了しなければいけません。
- FROM – から
- この送信は次に続くコールサインより送信されたときに。
(例: アルファ 1-1、…から、おくれ」) - I READ BACK – 復唱する
- 復唱を宣言するときに。
(例: アルファ 1-1、復唱する…、おくれ」) - I SAY AGAIN – 繰り返す
- 送信内で、文をもう一度言うときに。
(例: アルファ 1-1、目標確保、繰り返す、目標確保、おくれ」) - I VERIFY – 確認する
- 送られてきた送信内容を確認するときに。
- MORE TO FOLLOW – さらに続ける
- 送信中のステーションが受信側にむけて、追加の送信がある旨を宣言するときに。
- OSCAR MIKE – オスカー マイク
- NATO フォネティック コードで On the Move、移動する旨を送信するときに。
- OUT – おわり
- 送信の終了を宣言し、受信側からの応答が必要ないときに。おわりとおくれは同時に使われません。
(例: アルファ 1-1、了解した、おわり」) - OVER – おくれ
- 送信が終了し、受信側からの応答が必要なときに。Go ahead とも。
- READ BACK – 復唱せよ
- 送信内容を受信側へ復唱させるときに。
(例: アルファ 1-1、…復唱せよ、おくれ」) - RELAY (TO) – (コールサイン) へ伝達
- 特定のコールサインに向けての伝達送信するときに。伝達を使う場合は、必ず宛先となるコールサインが必要です。
- ROGER – 了解
- 送られてきた内容を理解し、十分に了解した。
- SAY AGAIN – 再送せよ
- 送信側へ、もう一度送信を要請するときに。送信側はコールサインも含めて、もう一度再送します。
(例: アルファ 1-1、再送せよ、おくれ」) - SEPAK SLOWER – ゆっくり話せ
- 送信側に対して、ゆっくりと話して欲しいときに。
- THIS IS – こちら
- この送信は後に続くコールサインからと宣言するときに。
(例: アルファ 1-1、こちらアルファ 6、…、おくれ」) - UNKNOWN STATION – 不明ステーション
- 受信側の識別が不明なときに。
(例: 不明なステーション、こちらアルファ 6、…、おくれ」) - VERIFY – 確認
- 送信側に対して、内容の確認を求め正しい内容を送信してもらうときに。これは必ず受信側が使わなければいけません。
- WAIT – 待て
- 送信を数秒間だけ一時停止する場合に。
(例: アルファ 1-1、…待て…、おくれ」) - WAIT OUT – 待て おわり
- 送信が数秒間以上、停止する場合に。
(例: アルファ 1-1、…待て、おわり」) - WILCO – ウィルコ
- 送信側に対して、内容を理解しそれを実行するときに。これはコールサインだけに使用されます。また了解は WILCO と同じ意味であり、両者は同時に使用されません。
- WRONG – 間違い
- 受信側による復唱が間違っているときに。
(例: アルファ 1-1、間違い…だ、おくれ」)
NATO フォネティック コード
無線通信のときに聞き間違えが起きないようにする、通話表のことです。英数字は全て単語でやり取りされます。
アルファベット | 読み |
---|---|
A | アルファ |
B | ブラボー |
C | チャーリー |
D | デルタ |
F | フォックストロット |
G | ゴルフ |
H | ホテル |
I | インディア |
J | ジュリエット |
K | キロ |
L | リマ |
M | マイク |
N | ノーベンバー |
O | オスカー |
P | パパ |
Q | キューベック |
R | ロメオ |
S | シエラ |
T | タンゴ |
U | ユニフォーム |
V | ヴィクター |
W | ウィスキー |
X | エックスレイ |
Y | ヤンキー |
Z | ズールー |
数字 | 読み (英語) | 読み (日本語) |
---|---|---|
0 | ゼロ | まる |
1 | ワン | ひと |
2 | ツー | に |
3 | スリー | さん |
4 | フォー | よん |
5 | ファイブ | ごぉ |
6 | シックス | ろく |
7 | セブン | なな |
8 | エイト | はち |
9 | ナイナー | きゅう |
無線ネット
無線ネットは特定の目的のために同じ周波数を 2 つ、またはそれ以上のステーションが使用し運用されます。
戦術ネット
戦術ネットは指揮官が部隊を指揮統制できるように確立されます。
- 歩兵小隊戦術ネット
- このネットでは小隊長が配下の分隊長を指揮統制するために使用されます。ネットには以下のステーションが含まれます。
- 小隊長
- 分隊長
- 小隊から独立して行動しているセキュリティ パトロールなど
- 歩兵中隊戦術ネット
- このネットでは中隊長が配下の部隊を指揮統制するために使用されます。ネットには以下のステーションが含まれます。
- 中隊指揮所
- 中隊観測所
- ライフル小隊
- 武器小隊
- 増強または支援部隊
またネットは小隊長が 60mm 迫撃砲の支援を要請するために使われます。
参照:
- ATP 3-21.8. Infantry Platoon and Squad
- ATP 6-02.53. TECHNIQUES FOR TACTICAL RADIO OPERATIONS
- COMMUNICATION EQUIPMENT PRACTICAL APPLICATION B191956, STUDENT HANDOUT
- MCRP 3-403B. Radio Operator's Handbook
- Radio Telephone Operator Course – UO Community Wiki
[…] Radio Telephone Operator 無線通信手 […]